真夜中の徘徊に付き合うあなたへ。言葉はいらないから、この音だけ流して。

GIRASOL Sounds

時計の針は、とうに深夜2時を回っている。

世界中が寝静まったこの時間に、私の家だけが起きているような感覚になる。 2月の夜気は、窓を閉めていても隙間から忍び込んでくるようだ。

私の隣には、10歳になったアイリッシュセッターのヤックルがいる。

壊れた時間と、止まらない足

5ヶ月前、てんかんを発症してから、彼の中の時間は少しずつ壊れ始めた。 発作が嵐のように通り過ぎた後、必ずやってくるのが「徘徊」だ。

発作の余韻で、彼の足腰は生まれたての子鹿のように頼りない。 それでも、何か見えない力に突き動かされるように、彼は歩き続けようとする。

その足音を聞きながら、私はダウンジャケットを羽織る。

「外、行こうか」

ヤックルは家の中では排泄をしない。 どんなに足がもつれても、意識が混濁していても、その習慣だけは頑なに残っている。

重たい扉を開けて外に出る。 真冬の冷気が頬を刺すけれど、不思議なことに、外の空気に触れると彼の足取りは少ししっかりする。

土の匂い、風の音。 かつて野山を駆け回っていた頃の記憶が、弱った神経を一時的に繋ぎ止めるのかもしれない。

「自由になりたい」と思ってしまう夜

排泄を済ませて部屋に戻る。 けれど、夜は終わらない。

ここからが本当の「徘徊」の時間だ。

狭いリビングを、彼は延々と回り続ける。 足腰に力が入らないから、家具にぶつかり、自分の足に躓き、派手に転ぶ。

ドサッ、という鈍い音。

そのたびに私は手を貸し、身体を起こす。 そしてまた、彼は歩き出す。

正直に言えば、心が折れそうになる瞬間がある。

「いつまで続くんだろう」 「自由になりたい」 「朝までぐっすり眠りたい」

愛犬の苦しむ姿を見ているのに、そんな黒い感情が胸の奥で渦巻く。 そんな自分に気づいて、また落ち込む。

部屋の隅では、5歳のジーナが不安そうにこちらを見つめている。 兄貴分の異変を感じ取り、彼女もまた、落ち着かない夜を過ごしているのだ。

転ぶ音、私の溜息、張り詰めた空気。 部屋全体が、見えない棘で満たされているような時間。

言葉の代わりに、音を流す

そんな時、私は何も言わずに音楽を流す。

言葉はいらない。 「大丈夫だよ」と声をかけるよりも、ただ静かに、空気を変える音が必要なのだ。

私がYoutubeで作っている、BGM。 再生ボタンを押すと、部屋の空気が少しだけ柔らかくなる。

不思議なもので、音楽が流れ始めると、張り詰めていた私の肩の力がふっと抜ける。 飼い主の私が落ち着くと、それは伝染するらしい。

徘徊のテンポが少しずつゆっくりになり、やがてヤックルは深い息をついて、床に身体を預ける。 不安そうにしていたジーナも、その横で丸くなる。

ようやく訪れた静寂。

孤独な夜を越えるための「お守り」

もし今、どこかの街で、私と同じように老犬の徘徊に付き合っているあなたがいたら。 孤独で、眠くて、泣きたくなっているあなたがいたら。

無理にポジティブにならなくていい。 ただ、この音を流して、少しだけ目をつぶってみてほしい。

犬のためだけじゃない。 これは、誰よりも頑張っているあなたの心を守るための音だから。

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👤 このブログを書いている人

MAMI(マミ) 犬と響き合うブランド「GIRASOL」主宰。 相模原にて、10歳のアイリッシュセッター(ヤックル)と5歳のイングリッシュコッカースパニエル(ジーナ)と暮らす。

「犬と人の心地よい暮らし」をテーマに、分離不安や老犬ケアのための音楽(GIRASOL Sounds)制作や、命を守るパラコードギアの製作・販売を行っています。 

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