私は“音”を作っているつもりで、空間を作っていた

GIRASOL Sounds

朝、トレーニングを終えて帰ってくると、
まだ身体の奥に、熱が残っていた。

脚の奥、ハムストリングの裏側に、
じわっと広がる重さ。

息は整っているのに、
どこかまだ戦闘モードのままの感覚が残っている。

そのままの状態で、
いつものように音を流した。


音が鳴り始めると、
部屋の空気が少し変わる。

何かが増えたというより、
逆に、何かが抜けていくような感覚だった。

さっきまであったはずの、
細かい思考のざわつき。

やること、やらなきゃいけないこと、
今日の流れ、時間の計算。

それらが、
少しずつ薄くなっていく。


静かになった、と思った。

でも、無音ではない。

むしろ、音は流れている。

なのに、
内側は静かになっていく。


最初は、
ただのBGMを作っているつもりだった。

528Hzとか、癒しとか、
そういう言葉に乗せて、
“音楽”を作っているつもりだった。

犬が落ち着けばいい。
無駄吠えが減ればいい。

そういう、
わかりやすい結果を想像していた。

でも、自分で流しているうちに、
少しずつ違和感が出てきた。

これは、
音楽というより、
もっと別のものなんじゃないかと。


作業中に流していると、
時間の流れ方が変わる。

焦っていたはずなのに、
気づくと手が止まらずに動いている。

何かを「やろう」としている感覚が薄れて、
ただ、やっている状態になる。

考えているようで、考えていない。

止まっているようで、進んでいる。

その状態が、
どこか心地よかった。


ふと視線を落とすと、
床にヤックルとジーナがいた。

気づいたら、
同じ場所で、同じ姿勢のまま、
呼吸をしている。

寝ているのか、起きているのか、
その中間みたいな状態。

耳は動いていない。
目も、半分閉じている。

何かを警戒している感じが、ない。


ああ、と思った。

これは「落ち着いている」じゃない。

もっと手前の、
「何も起きていない状態」にいる。

安全かどうかを判断する前の、
力を抜いていられる状態。

音が、その状態を
つくっているように見えた。


でも、よく考えると、
音が何かを“している”わけではない。

刺激しているわけでも、
操作しているわけでもない。

ただ、そこにあるだけだった。

それでも、
空気は変わる。

静かに、均一に、
途切れずに流れているものがあると、


空間の中に
“予測できるもの”が生まれる。

何が起きるかわからない状態は、
ずっと力が入る。

でも、何も起きないとわかっている空間では、
力を抜くことができる。

音は、そのための
“目に見えない床”みたいなものだった。

安心して、
その上に身体を預けられる。


私は“音”を作っているつもりで、
実際に作っていたのは、
空間だった。

何も起きない時間。

誰かをコントロールしない場所。

ただ、そこにいていいと
思える空気。

それを、
音でつくっていた。


最近は、
作業中もずっと流している。

何かを変えようとして流すのではなく、
ただ、その空間に入りたいから。

結果がどうとか、
効果がどうとか、

そういうものから
少し離れた場所にあるもの。

犬のために作ったはずの音が、
いつのまにか、
自分のための居場所になっていた。


気づかないうちに、
そこに戻っている自分がいる。

音が鳴っているのに、
静かだと感じる場所。

それが、
いまの自分にとっての
ちょうどいい距離だった。


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このブログを書いている人のこと

神奈川県在住。
犬と暮らしながら、GIRASOLという名前で、
パラコードのドッグギアと、犬のための音を作っている。

元フィットネスインストラクター

仕事として人と関わる時間が続く一方で、
次第に、刺激や情報の多さよりも、
静かで、管理できる距離感の暮らしを求めるようになった。

犬と暮らすようになり、
生活のリズムや優先順位が大きく変わった。

安全であること、安心できること、
毎日繰り返しても負担にならないこと。

GIRASOLは、
そうした生活の中で自然に残った基準から生まれている。

派手さより、長く使えること。
説明より、使ったときの違和感のなさ。

その感覚を信頼しながら、
道具や音を、静かに形にしている。

この文章を書いているときの、私

朝トレのあと、
まだ身体の奥に熱が残っている状態で、
音を流しながらパソコンに向かっている。

部屋は静かで、
犬たちは足元で寝ている。

何かを「届けよう」としている感覚よりも、
ただ、この空間をそのまま残しておきたいと思って書いている。

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