夜は、とにかく早く眠るようになっていた。
眠りたいというより、備えるために横になる感覚だった。
何時に起こされるか分からない生活の中で、
「眠れるうちに眠る」という言葉の意味を、
身体の奥で理解していく日々だった。
外の予定を入れることは減った。
というより、入れられなくなっていた。
家を空けている間に何かが起きたらどうしよう。
その想像が現実味を帯びるほど、
行動範囲は自然と狭くなっていった。
朝、まだ暗い時間にジムへ行く。
人が起き出す前の時間帯。
街がまだ呼吸を始めていないような空気の中で、
身体を動かしていた。
それは健康のためでも、
理想の体型のためでもあったけれど、
同時に、
自分の時間を失わないための最後の抵抗のようでもあった。
昼間は家にいる。
必ず誰かが家にいる環境を守るために、
生活は静かに組み替えられていった。
楽しみだった外出や、
気分転換のように飲んでいたお酒の時間は、
月に一度あるかどうかになった。
自由がなくなった。
そう感じる瞬間は確かにあった。
夜中、真冬の空気の中で外に出るとき。
眠気と寒さと不安が混ざった感覚の中で、
「自分の人生はどこへ行ったんだろう」と思うこともあった。
発作の気配に神経を研ぎ澄ませている時間。
先の見えない不安の中で、
お金を生み出していない自分に価値があるのかと、
静かに問い続けている自分がいた。
それでも、
失ったものばかりではなかった。
犬と過ごす時間の密度は、
確実に変わっていた。
以前は仕事が忙しくて、
どこか義務のようにお世話をしていた日もあった。
ルーティーンをこなすことが優先になり、
目の前の存在を見つめる余裕がなかった自分もいた。
今は違っていた。
長い時間を一緒に過ごす中で、
小さな変化に気づくようになっていた。
呼吸の深さや、目の動きや、
歩く速度のわずかな違い。
それは、
介護という言葉で括るには静かすぎる時間だった。
子供がいない人生の中で、
夜泣きや寝不足の大変さを
「分かるつもり」でいた過去があった。
本当に分かるということは、
体験を通してしか起きないのだと、
この生活の中で知っていった。
整った生活リズム。
静かに保たれている家の空気。
犬との距離の近さ。
守れているものは、
目立たない形でそこに残っていた。
私はこうしている。
外の世界に出られない日でも、
家の中の環境だけは整えるようにしている。
掃除をする。
換気をする。
体を動かす。
生活が小さくなっていく中で、
感覚だけは鈍らせないようにしていた。
それは前向きな努力というより、
自分を見失わないための静かな習慣だった。
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このブログを書いている人のこと
神奈川県在住。
犬と暮らしながら、GIRASOLという名前で、
パラコードのドッグギアと、犬のための音を作っている。
元フィットネスインストラクター。
仕事として人と関わる時間が続く一方で、
次第に、刺激や情報の多さよりも、
静かで、管理できる距離感の暮らしを求めるようになった。
犬と暮らすようになり、
生活のリズムや優先順位が大きく変わった。
安全であること、安心できること、
毎日繰り返しても負担にならないこと。
GIRASOLは、
そうした生活の中で自然に残った基準から生まれている。
派手さより、長く使えること。
説明より、使ったときの違和感のなさ。
この文章を書いているときの私は、
まだ夜が明けきらない部屋の静けさの中で、
次に起こされる時間をどこかで気にしながら、
それでも今だけは言葉に集中していた。


