夜中のわずかな物音で目が覚めるようになった。
完全に起きているわけではないのに、どこかで気配を拾っている。
下の階で、カチャカチャと床に爪が当たる音。
ヤックルが動いている。
体を起こして、暗いまま階段を降りる。
電気はつけない。ダウンライトだけのやわらかい明かりの中で、彼は落ち着かない様子で歩いている。
排泄に行きたい合図だった。
外に出ると、さっきまでのヨボヨボした動きが嘘みたいに、シャカシャカと歩き出す。
足は悪いはずなのに、その瞬間だけは別の体を使っているみたいだった。
用を足し終わると、またゆっくりとした足取りに戻る。
帰り道は、おじいちゃんの歩き方になっている。
その往復を、ただ静かに付き添う。
半年くらい前から、急に変わった。
てんかんをきっかけに、時間の進み方が一気に早くなったような感覚がある。
目や耳の反応が鈍くなり、くるくると同じ場所を回ることが増えた。
水を飲みに行っても場所がわからず、立ち止まっている。
前足に力が入らず、少しずつ開いていく。
排泄も我慢ができなくなった。
寝ている時間は明らかに長くなっているのに、夜中は関係なく起きる。
時間の感覚が、少しずつずれてきている。
長い散歩はもうしない。
走ることもない。
外に出る目的は、ほとんど排泄だけになった。
それでも一日に4回、多いときは6回。
「行きたい」と言ったときに外へ出す。
時間を決めて連れていくよりも、そのほうが結果的にスムーズだった。
短い時間で終わる散歩。
景色を楽しむ余裕はない。
でも、その分だけ、必要なことに集中している時間でもある。
家の中も変わった。
明るすぎないように、照明はダウンライトだけにした。
静かな空間を保つために、自分で作ったBGMを流している。
水がうまく飲めなくなったので、フードはしっかりふやかす。
食事はむしろよく食べるようになった。
以前はなかなか食べてくれなかったのに、今は違う。
認知の変化なのか、理由ははっきりしない。
ただ、その変化も含めて今の状態なんだと思っている。
冬の外は正直きつい。
夜中に何度も外へ出るのは、体にこたえる。
だから、うんちは家の中でもできるようにした。
全部を外でやらせる必要はない。
生活の中で、無理が出るところは調整していく。
外に出る回数を減らすことよりも、続けられる形にすることのほうが大事だった。
外に出られなくなった。
夜中も起こされる。
生活はかなり制限されている。
それでも、完全に止まったわけではない。
朝起きて、整えて、散歩に行って、家に戻る。
その繰り返しの中に、ちゃんと流れはある。
穏やかな性格は変わらないし、食べるときは今でもよく噛んでいる。
全部が変わったわけじゃない。
変わったところに合わせていく。
それだけのことだった。
無理に戻そうとしない。
前と同じようにさせようとしない。
できなくなったことを数えるより、今できる形を探す。
その積み重ねで、生活はちゃんと続いていく。
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このブログを書いている人のこと
神奈川県在住。
犬と暮らしながら、GIRASOLという名前で
パラコードのドッグギアと、犬のための音を制作している。
元フィットネスインストラクター。
外に向かっていた生活から、内側を整える暮らしに変わった。
この文章を書いている今も、
下の階の小さな物音に意識を向けながら、静かに座っている。
起きるかもしれないし、起きないかもしれない。
その間にある時間ごと、生活にしている。


