朝の空気が、少しだけ軽く感じる日がある。
窓を開けたときの、冷たい空気。
まだ人の気配が少ない時間。
音がほとんどない中で、犬の寝息だけが聞こえている。
その静けさの中にいると、
なぜか、身体の奥がゆるむ。
何もしていない。
何も終わっていない。
何も積み上がっていない。
それなのに、満たされている感じがする。
その感覚を、すぐに否定していた自分がいた。
こんな状態で、満足していいわけがない。
まだ何も成し遂げていないのに。
誰にも認められていないのに。
この感じは、きっと勘違いだ。
ちゃんと結果を出したときに、初めて感じていいものだ。
そうやって、静かに湧いてきた感覚を、押し戻していた。
昔の自分は、わかりやすいものを追いかけていた。
数字。評価。結果。
人から見て「すごい」と思われるもの。
目立つこと。
ちゃんとしていること。
誰かに認めてもらえる形をつくること。
それが、自分の価値だと思っていた。
それがない自分は、何もないと思っていた。
だから、何もしていない時間は怖かった。
何も生み出していない日は、存在してはいけない気がした。
常に、何かをやっていないといけなかった。
でも、あるときから、少しずつ変わり始めた。
意識して変えたわけじゃない。
むしろ、うまくできなくなった。
前みたいに、ずっと頑張ることができなくなった。
途中で疲れる。
気持ちが続かない。
思った通りに動けない。
ちゃんとやろうとしても、どこかで止まる。
そのたびに、「またできなかった」と思っていた。
でも、止まった時間の中で、
今まで見ていなかったものが見えるようになった。
犬が安心して寝ている顔。
何も起きていない時間の静けさ。
朝の光のやわらかさ。
何もしていない時間の中に、
ちゃんと「感じるもの」があった。
ある朝、特に何もしていないのに、
「あ、なんかいいな」と思った瞬間があった。
ただ座っていただけだった。
犬が隣で寝ていて、
外は静かで、
やることは山ほど残っていた。
でも、そのときだけ、
何も足りない感じがしなかった。
その感覚に気づいたとき、
少しだけ怖くなった。
こんな状態で、満足してしまったら、
もう頑張れなくなるんじゃないか。
このまま、何も成し遂げないまま終わるんじゃないか。
そんな考えが浮かんだ。
不思議だった。
本当は、ずっと欲しかった感覚のはずなのに、
いざそれがあると、受け取るのが怖くなる。
足りない状態の方が、安心する。
まだ足りないから、頑張れる。
まだ足りないから、動ける。
そうやって、ずっと自分を動かしてきたから。
満ちている状態は、どこか危険な気がした。
でも、その感覚は、何度か繰り返し訪れた。
何かを達成したときじゃない。
誰かに褒められたときでもない。
むしろ、何もしていないとき。
犬と一緒に、ただ過ごしているとき。
音も少なく、刺激もない時間の中で。
静かに、満ちている感覚。
それは、派手じゃない。
人に見せるものでもない。
でも、確かにそこにある。
今も、完全に受け取れているわけじゃない。
「これでいいのか」と思う瞬間は、まだある。
もっとやらないといけないんじゃないか。
このままで終わってしまうんじゃないか。
そんな不安は、普通に出てくる。
でも、そのたびに思い出す。
何もしていないのに、
「なんかいいな」と思えた、あの感覚。
あれは、嘘じゃなかった。
何かを成し遂げたときにしか、
幸せを感じてはいけないと思っていた。
価値がある状態じゃないと、
満たされてはいけないと思っていた。
でも、もしかしたら順番が逆なのかもしれない。
満たされている感覚があるから、
その上に何かを積み上げられるのかもしれない。
足りないから動くんじゃなくて、
すでにあるものの上に、何かを置いていく。
朝、犬の寝息を聞きながら、
静かに座っている時間がある。
何も進んでいないように見える時間。
でも、その時間の中で、
呼吸が少し深くなる。
それだけで、十分だと思える瞬間がある。
その感覚を、今は前よりも否定しなくなった。
この続きに、もし興味があれば
静かな時間の中に、音を足したいときは
GIRASOL Soundsで流しているものを、そのまま流している。
散歩の時間も、同じようにゆっくりになってきて、
その時間に使うものも、少しずつ変わっていった。
▶︎YouTube
▶︎Shop
いっしょに読みたい記事
・ちゃんとできない日を、許せなかった理由
・予定を減らしたら、犬の寝顔を見る時間が増えた
このブログを書いている人のこと
神奈川県在住。
犬と暮らしながら、GIRASOLという名前で、
パラコードのドッグギアと、犬のための音を作っている。
元フィットネスインストラクター
仕事として人と関わる時間が続く一方で、
次第に、刺激や情報の多さよりも、
静かで、管理できる距離感の暮らしを求めるようになった。
犬と暮らすようになり、
生活のリズムや優先順位が大きく変わった。
安全であること、安心できること、
毎日繰り返しても負担にならないこと。
GIRASOLは、
そうした生活の中で自然に残った基準から生まれている。
派手さより、長く使えること。
説明より、使ったときの違和感のなさ。
その感覚を信頼しながら、
道具や音を、静かに形にしている。
▶︎インスタ


