静かな朝は、
「よく眠れた朝」のことだと思っていた自分がいた。
目覚ましが鳴る前に自然に目が覚める。
身体が軽く、呼吸が深く、
今日も整った一日が始まる予感がする。
そういう朝を、
理想の朝だと信じていた。
けれどこの朝は違った。
まだ夜のような暗さの中で、
ヤックルの物音で目が覚めた。
時間は一時半。
時計を確認した瞬間、
「またか」と思った自分がいた。
階下でソワソワしている気配。
排泄を我慢している音。
小さな爪の音。
その一つひとつが
眠りの深いところまで入り込んでくる。
完全には眠れていなかった。
浅い水面に浮かぶような睡眠。
夢を見ているのか起きているのか分からない状態。
身体は横になっているのに
神経だけがずっと起きている。
鼻水が出ていた。
頭も少し重かった。
体調が整っている朝ではなかった。
それでも身体は動いた。
犬たちを外に出すために立ち上がる。
暗い部屋の空気を踏む。
三月の半ば。
冬ほどの冷たさではないけれど、
まだ完全に春ではない温度。
その曖昧な空気の中で、
ヤックルは落ち着かないまま歩き、
ジーナはどこか楽しそうに動き回っていた。
近くにいる二匹の気配。
夜とも朝とも言えない時間。
生活は、
こちらの準備が整うのを待ってくれない。
整った身体で始める一日もあれば、
眠れないまま始まる一日もある。
そのどちらも
同じように時間は進んでいく。
ソファに戻る。
まだ外は暗い。
窓は開けない。
夜中の二時に、
新しい空気を入れる気にはならなかった。
今日は登山に行く予定があった。
夜は飲みにも行く。
そのための服や靴を準備していたら、
荷物は自然と増えていった。
山のための服。
夜のための服。
移動のための靴。
生活を切り替えるための道具が、
ひとつずつ増えていく。
身体はまだ重い。
鼻は詰まり気味で、
頭の奥がぼんやりしていた。
それでも、
この朝は静かだった。
静かというのは、
音がないことではなかった。
むしろ小さな音が
はっきり聞こえる状態だった。
犬の爪が床に触れる音。
階段のきしむ音。
布が擦れる音。
自分の呼吸の浅さまで
感じ取れてしまう時間。
生活の輪郭が
くっきり浮かび上がる朝だった。
整った日だけが
価値のある日だと思っていた頃、
こういう朝は
ただの失敗の始まりだった。
けれど今は少し違う。
整っていない朝は、
生活が「作られたものではない」と
教えてくれる。
身体は予定通りに動かない。
犬も予定通りには動かない。
それでも時間は進み、
一日は始まってしまう。
だから、
その流れの中でできることをする。
完璧な状態で始める日もあれば、
重たいまま動き出す日もある。
どちらも同じように
生活の一部だった。
静かな朝にだけ見えるものは、
整った景色ではなかった。
むしろ
揺れている生活の形だった。
その形を、
自分は静かに受け入れている。
そしてまた、
次の一日が始まっていく。
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このブログを書いている人のこと
神奈川県在住。
犬と暮らしながら、GIRASOLという名前で、
パラコードのドッグギアと、犬のための音を作っている。
元フィットネスインストラクター。
仕事として人と関わる時間が続く一方で、
次第に、刺激や情報の多さよりも、
静かで、管理できる距離感の暮らしを求めるようになった。
犬と暮らすようになり、
生活のリズムや優先順位が大きく変わった。
安全であること。
安心できること。
毎日繰り返しても負担にならないこと。
GIRASOLは、
そうした生活の中で自然に残った基準から生まれている。
派手さより、長く使えること。
説明より、使ったときの違和感のなさ。
その感覚を信頼しながら、
道具や音を静かに形にしている。


